
逝去の報で書いた「そこにはいつも、男の原像が、薫った」にも、
以前の稿となる「洗練の域にまで高められた反抗の軌跡!」にも、その俳優としての性格を記録したけれども、
「明日に向って撃て!」('69)をその手始めとしたいのは、この作品がそれまでのポール・ニューマンが駈け走った、作品系列の集大成のようにも思えるからである。
青春の反逆という主題の集大成――しかしさらには西部劇の終焉の足音を響かせたニュー・シネマの金字塔、或いは文字通り西部劇の挽歌を詠って見せた、ジョージ・ロイ・ヒルとの協奏においても比類なき調べとなったからである。


ニュー・シネマにはその2年前にまったく新しい、これも西部劇の終焉を跡付けた「俺たちに明日はない」('67)があり、これまたこのブッチ・キャシディとサンダンス・キッドと同様に、実在のボニーとクライドを取り上げて、フォーカスが180度革新された西部劇なのである。
その二篇の西部劇には青春という2文字で共通しながら、しかしさらにこれは西部劇で書いた抒情詩の趣である。

まだ新進俳優だったロバート・レッドフォードの出世作でもあり、キャサリン・ロスにとっても「卒業」('67)と並ぶ代表作ともなったのは、自転車を介在とした『雨に濡れても』のバート・バカラックの挿入歌が伴奏するこの3人のトライアングル・ラブの軽やかさではなかっただろうか。
優しく、どこか微笑みの寄り添う西部劇、その影響は日本映画にも表れて、黒木和雄の「竜馬暗殺」('74)は、幕末にそのタッチを持ち込んだと言っていい興趣なのではあった。或る時代の終焉と、新時代の訪れをさわやかに伝えた、あくまでソフィスティケイトされたポール・ニューマンの個性が担う西部劇なのではある。



「明日に向って撃て!」BUTCH CASSIDY AND THE SUNDANCE KID(1969/112分/米FOX)
監督:ジョージ・ロイ・ヒル
脚本:ウィリアム・ゴールドマン
撮影:コンラッド・L・ホール
音楽:バート・バカラック
出演:ポール・ニューマン、ロバート・レッドフォード、キャサリン・ロス
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