「上海特急」
●時代と切り結んだディートリッヒの英姿!


上海特急2 上海特急

タイトルどおり上海に向かう列車、それも大戦時のただならぬ空気の中の「上海特急」です。列車を舞台に展開されるドラマは映画の伝統的な手法でもありますが、それはグランド・ホテル様式の応用とも言えます。

もっとも、この映画の製作時にはそんな作劇法を総称することばもまだなく、グレタ・ガルボの「グランド・ホテル」も同年の製作ですから、トーキーを模索する才能が手繰り寄せた共通の作劇といっていいでしょう。

列車に乗り込む人物群像の紹介が手際よく果たされていきます。
列車といっても機関車ですから、きしめくように呼吸する車輪や、混雑の中をタラップに上がる乗客、北京からのあわただしい出発の時間を背景にして、小犬を連れた老婦人、中国人の高等娼婦、スパイ、賭博師、軍医将校といった面々が車内に消える中で、謎の美女<上海リリー>の登場も一瞬、その羽飾りに覆われた表情を見る間もない一瞬のディートリッヒです。

なにやらいわくありげな人物があれこれ出てきますが、そのなかでもとりわけ<上海リリー>のたたずまいは異彩を放っています。怪しげな人物はむしろマレーネ・ディートリッヒの妖しさを縁取るためにこそ存在しているように見えるから不思議です。

上海特急3.jpg「ひとりの男だけでは<上海リリー>は変えられないの」
以後この戦時に良くぞ次々と言えるくらいの<上海リリー>の、お色直しとでも呼べるディートリッヒのファッションがやはり注目なのです。

物語は<上海リリー>が<先生>と呼ぶ軍医将校との再会で、その関係がいわく因縁の間柄と知れるわけですが、その関係を軸に、反乱軍の列車占領やその統領の非道によって、窮地に立たされる<上海リリー>がいかにしてそれに対処していったかという、或る意味では戦時の男女関係を通してひとりの女性の生き様が
浮き彫りにされていくと言っていいでしょう。

特に<上海リリー>の目線に注目していただきたいのです。
人はおおむねその利害、身分の上下、風評による価値観、或いは相手のその身なりだけによっても、その目線が変わるものです。或る時は見下ろし、或る時は対等の平衡移動、時には仰ぎ見る視点も、媚びへつらう視点もあるかもしれません。<上海リリー>以外の登場人物にはそのとおりの目線があります。

しかし、<上海リリー>にそれはありません。上海特急4
見事なくらいその目線は一定なのです。
因みに他の登場人物の目線の揺れを見てみますと、<上海リリー>を噂の範囲で非難していた人物が、<上海リリー>の行為を知って理解を深めそのまなざしが変わります。
その変容は恋人と目される軍医将校にしても同じです。
誤解、曲解の生じがちな恋人同士にしても、です。

「これは純粋に信頼の問題なの。遠い昔、お互いに愛し合っていた。別れてから私は人生を棄てたの。口先だけの愛などいらなかった。あれから私は変わっていないし、あの人もそうだわ」
「まだ愛しているのかね」
「ええ」
「彼も君のことを?」
「そうとは思えない」
そんな問答もあります。

この目線にぶれがない、というのは、<上海リリー>に限らず、この’30年代のマレーネ・ディートリッヒの作品に共通する魅力です。それはこの女優の、存在の質感、演技の質感とでも呼べる根底の才能で、私などにはドイツ出身の映画女優の最大のミューズともなっています。

いかにも颯爽と、時代を駆け抜けたマレーネ・ディートリッヒは、ある種デカダンスの香りを醸し、おおいに生の哲学さえ秘めた台詞を散りばめて、疾走しました。その男性関係のリストにすら、女性でなら垂涎というメンバーが並んで、伝説はさらに永遠ではあります。

上海特急5 上海特急6

上海特急」SHANGHAI EXPRESS(1932/81分/米) 
監督:ジョセフ・フォン・スタンバーグ 
脚本: ジュールス・ファースマン
撮影:リー・ガームス 
音楽: W・フランク・ハーリング
出演:マレーネ・ディートリッヒ、アンナ・メイ・ウォング、
ワーナー・オーランド、クライヴ・ブルック、ユージン・パレット
Copyright (C) 2007 Ryo Izaki,All rights reserved.

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posted by 映画貴族ニャン at 08:50 | Comment(0) | TrackBack(0) | 黄金の’30年代>上海特急
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