

青春時代とは、所詮人生予備軍、遂には人生のレギュラーとして、勝敗のめどもつかぬ闘いにいまだ参戦せず、というところもあって、それが故にこそアナーキーな雄叫びも反抗も、後先の見返りも求めず、突き進んで行けるものでもあるだろう。
だがしかし、この青春映画はいささか勝手が違う。ペーパーとは答案用紙、正解との追いかけっこ、カーチェイスのようには派手でもなく、恰好も良くない辛気臭さ。
ペーパー・チェイス、実は単位を取る人生予備軍の闘いなのである。
教授に名指しされるたびに緊張が走る。
「ハートくん!」
そう幾度も呼びながらプロフェッサーはいっかなその名を覚えようともせず、
「ところで、君の名は?」

「先生はクソだ!」と、言ってみもした。
教授に背を向け、教室を立ち去ろうとさえ試みてはいる。
だがしかし、「ハートくん!席に戻りたまえ!」
その電撃のようなひとことに、たちまち萎縮し言いなりのロボットとなるハートくん。

教授に扮するのがジョン・ハウスマン(ヘンリー・フォンダの舞台仲間にして友人、貫禄の名演である)ハートくんはティモシー・ボトムズ(いかにもいまだ座標軸を持ち得ずの過度期としてのキャラクターを好演)そして恋人がリンゼイ・ワグナー(この作品の後、バイオニック・ウーマンとして、走れマックス!の掛け声とともに盛名を馳せる)

なにしろハーバードの法科ということである。ロウスクールといったって、Lowではなく、Lawなのだから。
青春期に避け得ない、勉学を主題として、しかしなんとそのアカデミズムが心地よく見えてしまうことだろう。この作品を見ると単位を獲ち取ることすらが、ささやかな冒険の旅に思えてくる。
たとえその免状を紙ヒコーキにして飛ばしてしまおうとも、である。


「ペーパー・チェイス」THE PAPER CHASE(1973/112分/米Fox)
監督&脚本:ジェームズ・ブリッジス
撮影:ゴードン・ウィリス
音楽:ジョン・ウィリアムズ
出演:ティモシー・ボトムズ、リンゼイ・ワグナー、ジョン・ハウスマン
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