「たそがれの維納」
●維納と書いてウィーンと読む、その雅趣と香気にむせる!

MASQUERADE IN VIENNA3.jpg初めて見たのはフィルム・センターでした。
今では苦もなく再見できるのはDVDのお蔭ですが、’30年代の映画の中でもオーストリアで造られた映画の数々は、ひとあじもふたあじも異なる、雅趣と香気に満ちています。

1930年代初めにしきりと造られたシネ・オペレッタ。
――その代表作は「会議は踊る」('31)や、エルンスト・ルビッチの諸作ということになりますが、ウィーンで造られたウィーン映画という呼び方もあって、その中での白眉はこの作品「たそがれの維納」ということになります。ウィーンを維納と書いた時代そのものの雅趣もあります。

まだまだこの時期の作品を存分に見ることが出来ないのですが、若き頃、映画史上のベストワンはこれ、と標榜しておりました。

MASQUERADE IN VIENNA.jpg舞踏会の賞品であるチンチラのマフが受け取った女性からその係累に借りられて、そのマフで腰だけを隠しただけの姿で、色事師としても名高い有名画家のモデルになったことから騒動が起きる、という発端です。
手違いで新聞にも公表され、その絵のモデルは誰か、ウィーンの社交界はあれこれの憶測を呼び、賞品の受賞者の女性の周辺があわただしいこととなります。

――というようなお話を綴っても、実は映画の魅力を伝えるにあまり意味のあることとは思えないのです。今ならそのヌードであるべき絵や、その顛末のドキュメントを扇情的に描写するのでしょうが、その肝心の絵すら最後までまったく最後まで見せることはないのです。せいぜいキャンバスを背後から捉えたフォーカスがあるのみなのです。

それでいて、その核となるヌード絵が後で考えると観客は見せられていないことに気づく、映画の語り口の洗練、無駄を切り取る感覚、その洗練を、身をもって体現する役者たち、まるで画面をビロードのように輝かせる照明、時代の音楽というべきワルツの調べ、しかもこんなスキャンダルめいたお話を扱いながら、なんという気品、品格。それがこの作品の絶えざる魅惑の在り処でしょう。

モノクロームの映画が幾多のカラー映画を超えて、美しい輝きの拡がりをこんなにも感じさせてくれる映画は’30年代の映画特有の気がします。これを監督したヴィリ・フォルストは、いま見ることの出来るものとしては処女作「未完成交響楽」('33)と、「ブルグ劇場」('37)とこの作品の3本、
最後の作品「罪ある女」('50)その前の「維納物語」('41)と間隔もあり、以後いかなる生涯を送った人なのか、「会議は踊る」のエリック・シャレルともども、この’30年代の英才たちはおいそれとその実像を結ぶ材料が、ネット上にも見当たりません。

MASQUERADE IN VIENNA2.jpgまだしもジョゼフ・フォン・スタンバーグはディートリッヒとの関わりもあって、 作品数も多く見ることが出来ますし、洩れ聞こえる逸話もあります。映画がトーキーとなって間もない頃の、この豊穣な成果はやはり、各界の英知英才が映画という媒体にこぞって興味を覚え集結した、その昂揚のさなか故にこそ、輩出した作品たち、という気がします。

「外人部隊」('33)「ミモザ館」('34)「女だけの都」('35)の、ジャック・フェデーはフランスをメインに各国で活躍しましたから、出身はと思いましたら、ベルギーで、妻のフランソワーズ・ロゼーはフェデーの助監督だったマルセル・カルネの処女作「ジェニイの家」に主演、そんな流れも面白いものです。

1930年代の映画の紹介、その最初の映画に、この作品を取り上げたのは、なによりこの時代の映画の勃興の空気と、ウィーン情緒纏綿の雅趣と香気に触れていただきたかったからです。それは、こんなにも時代が違えば、人も違い、世界も違う、そんな歴史の中にたまさか人の生はふと置かれているに過ぎない、ということでもあります。

「たそがれの維納」の最廉価へのリンク

たそがれの維納」MASKERADE IN VIENNA(1934/99分/墺)
監督・原作・脚本:ヴィリ・フォルスト  
撮影:フランツ・プラナー   
音楽:フランツ・グローテ&ウィリー・シュミット=ゲントナー
出演:アドルフ・ヴォールブリュック、オルガ・チェホーワ、パウラ・ベッセリー、ワルター・ヤンセン、ヒルデ・ホン・シュトルツ
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posted by 映画貴族ニャン at 19:42 | Comment(0) | TrackBack(0) | 黄金の’30年代>たそがれの維納
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