

日本にはその多くが公開されずにいるが、ジョルジュ・シムノン原作を中心に映画化し続けたピエール・グラニエ=ドフェール、まこと渋いが知る人ぞ知る名匠なのではある。'90年代以降はメグレ警視シリーズをTVMで撮り続けたようだが、昨年11月惜しくも没し、享年80歳。
その名品中の名品がこの「離愁」('73)。ロミー・シュナイダーにとってもはずせない、ノートを観ると'75年公開時のベストワンとしている。久しぶりにその愛惜あたわざるこの至高の恋愛ドラマを再見してその印象を新たにした。

実にわびしき疎開列車で隣り合わせた男と女の、或る意味ではやむなき交情が、徐々に逼迫した状況を重ねてゆき、それはさらに戦後生活にも影を落とす。女スパイの疑いをかけられている女を知っているか否かの詰問に、互いに知らぬ顔を通そうとしたかにも見えるその互いが、ひとたび視線を交わした時にはもう後戻りできぬ、押し寄せる万感の激情。

低く抑えながら耳に余韻を残していく背景音や音の調べ、空爆される列車と、そこに厳然と到来する死の苛酷。
ひっつめの髪さえ鮮やかに見えるロミー・シュナイダーの、寄る辺なきユダヤ女の孤絶の表情、微笑むとも知れぬかそけき微笑、耐えに耐えるその万感が、語るべき映画のすべてを語る。
あゝ、これが映画の至福というべきである。



「離愁」LE TRAIN(1973/103分/仏伊)
監督:ピエール・グラニエ=ドフェール
脚本: 〃 &パスカル・ジャルダン
撮影:ワルター・ウォティッツ
音楽:フィリップ・サルド
出演:ジャン=ルイ・トランティニャン、ロミー・シュナイダー、アンヌ・ヴィアゼムスキー
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